研究会活動

令和2年 活動報告

INDEX

令和02年11月19日
テーマ(1):外国株過当取引事案
テーマ(2):トルコリラ建て・トルコリラ連動仕組債の事件
報告担当:今井孝直弁護士、荒井俊且弁護士、三木俊博弁護士
令和02年10月15日
テーマ(1):証拠保全事件(抗告審勝訴決定)
テーマ(2):「監督指針」「業務運営原則」の改正案
報告担当:安田孝弘弁護士(姫路)、片岡利雄弁護士
令和02年09月17日
テーマ:仕組債販売の現状と訴訟・和解の内容
報告担当:松田繁三弁護士
令和02年03月19日
テーマ(1):大阪地判令和2年1月31日(公募仕組債につき適合性原則違反を認めた)
テーマ(2):最近被害顕在化が見られる仕組債事案の情報交換
報告担当:片岡利雄弁護士、今井孝直弁護士

令和02年11月19日

テーマ(1):外国株過当取引事案

報告担当:今井孝直弁護士、荒井俊且弁護士

1.今井会員から、取引経験のほとんど無かった専業主婦にハイリスクな投信及び債券を買わせ、その後外国株の回転売買等に引き込み、数千万円規模の損失を負わせた事件の報告があった。

2.総勘定元帳上明らかになっていない外国株の「みなし手数料」の計算方法につき、令和2年1月31日付け大阪地裁判決(証券判セ第57号収載)においては、みなし手数料額が前提事実となっていたが、どのような経緯でそのようになったのかという質問があった。当該事案では被告たる証券会社がみなし手数料及び為替手数料の項目のある総括表を(被告)準備書面に添付して出してきた旨回答あり。

3.外国株の売買取引の客観的な整理の方法及び損害の計算方法につき、意見交換を行った。

テーマ(2):トルコリラ建て・トルコリラ連動仕組債の事件

報告担当:三木俊博弁護士

1.三木会員から、専門職の男性がトルコリラ建て・トルコリラ連動仕組債を多数購入させられ(家族名義を含む)、総額6000万円の損害を被った事件(調査段階)の報告がなされた。(日本円をトルコリラに転換して購入。償還されたトルコリラを日本円に円転して受取り。)

2.本件仕組債の利率は0.5%。本来であれば、トルコリラ建て優良債券の金利は10%であってもおかしくない。専門業者の分析評価では、残り9.5%のうち一定部分が下記オプション料に当てられ、残余部分は証券会社が取得しているとの見立て。

3.購入者はトルコリラ買い/日本円売りの為替オプション取引に買い手として参加する内実。

4.満期は5年後であり、中途売却が原則不可(流動性乏しい/流動性リスク高い)。

5.満期(5年後の償還時)に、前記オプション取引が利益勘定ならオプションの権利行使→トルコリラ償還は元本全額+5倍レバレッジアップ、その後日本円に転換して更に増額償還。オプション取引が損失勘定なら権利放棄→元本はトルコリラで全額償還、しかし、円転後は減額償還(元本割れ)。

6.5年後の一時点におけるトルコリラ/日本円為替相場を予測してリスクとリターンを見通し、デメリット(超低金利)を加味した上で、それら利害得失を比較考量して投資(購入)の是非を判断することが必要。証券会社は、勧誘する以上、上記の旨を説明し、投資家の理解を得る必要があるのではないか。

7.「トルコリラ建て」仕組債としては、償還金額が元本以上であり、払込み(購入)と払戻し(償還)が同じ通貨で行われることから、金融庁の公表資料では「複雑でない仕組債」とされる。本件仕組債も、証券会社が「複雑な仕組債ではない」として、「最悪シナリオ・想定最大損失」の説明等はされなかった。しかしながら、具体的に「仕組み」を理解し、内在するデメリットとリスクの内容と程度を実感するに足る説明が必要なのではないか。

8. 違法性の解明には、金融庁の業務運営原則()第5則・第6則の「注記」が参考になるのではないかとの指摘があった。

文責:西田陽子弁護士

令和02年10月15日

テーマ(1):証拠保全事件(抗告審勝訴決定)

報告担当:安田孝弘弁護士(姫路)

1.被害者の無職男性が仕組債などを次々に買わされた事件の起訴前証拠保全手続において、申立に沿って幅広い範囲で提示命令が出たのに対し、相手方の証券会社がこれを不服として抗告したところ、大阪高裁は棄却して確定した事件につき、同事件を担当した安田会員(姫路)から報告があった。同高裁決定(大高4民)は「営業取扱いマニュアル」「コンプライアンスマニュアル」につき、内部文書性を認めるも、社内での意思形成の過程で作成される文書ではない、開示によって社内の自由な意思形成が阻害される性質のものではない、営業秘密・個人プライバシーが記載されたものでもない、と判示している。

2.訴訟提起前および訴訟遂行中における証拠収集につき、この大阪高裁決定と過日に今井会員(大阪)が獲得した文書提出命令(大阪高裁決定())は貴重な成果であるので、各会員が活用に努め、以って、これら2つの高裁決定の定着を図ることの重要性を確認した。

3.本案訴訟や証拠保全手続で提出(収集)された関係資料を入手する方法として、

  1. 同種訴訟の存否を調査するには地裁(所長)宛てに弁護士会照会を掛ける
  2. その上で、当該訴訟の事件記録を閲覧する
  3. 当該記録の入手については利害関係を疎明して謄写する
  4. 当該訴訟を担当している弁護士が分かれば当該弁護士に弁護士会照会を掛ける

等の方法と経験が紹介され、その活用につき意見交換した。

4.文書提出(提示)の対象として「適合性審査書類」がある。同書類は本案訴訟において被告証券会社の方から提出されることもあり、また、原告から任意提出を求めると裁判所の促しもあって任意に提出されることも少なくない。しかし、証券会社の中には、同書類が内部専用文書である旨を主張して頑なに提出(提示)を拒む会社もある。しかしながら、同書類は適合性原則の遵守義務の履行にかかる文書であって、しかも、外部機関たる証券取引監視委員会の検査対象となる文書でもあるので、内部専用文書に該当しない。その旨を明言する裁判所決定が望まれる。

テーマ(2):「監督指針」「業務運営原則」の改正案

報告担当:片岡利雄弁護士

1.標記のものが、10月26日(月)締切でパブリックコメント募集となっている。

2.改正案の方向性に賛同する。10月23日(金)開催の証券先物合同全国(WEB)大会では上柳審議会委員の報告を受け、意見交換の予定。それを踏まえて、各会員がパブリックコメントに応募投稿する旨を申し合わせた。

文責:西田陽子弁護士

令和02年09月17日

テーマ:仕組債販売の現状と訴訟・和解の内容

報告担当:松田繁三弁護士

事案の概要

60代の女性が、証券会社から立て続けに勧誘を受け、平成25年から平成28年にかけて、仕組債(他社株転換条項付社債=EB)、投資信託、外国債券を購入させられ、多額の損失を被った。証券取引の経験が殆どないにもかかわらず、証券会社の担当者は複雑でハイリスクな証券を勧誘している点で適合性原則違反というべきであるし、リスクを実感させるような説明もしていない点で説明義務違反というべきものである。被害者はFINMAC(フィンマック)に和解あっせんを申し立てたが、証券会社が違法勧誘を全く認めなかったため、訴訟提起に及んだ事案である。

事案解決とそのポイント

証券取引被害の訴訟事件においては、証券会社が保存している電話録音記録を証拠として取り調べ、勧誘の実態を精査するという訴訟実務が定着していると言える。本件訴訟でも同様の精査が行われた。それにより、証券会社の職員は、顧客投資家が「リスクの高いものは要らない」と明言して、その意向に相応しい証券を求めたのに対し、「そうなってくると必然的にEB債ということになる」「3ヶ月満期の定期預金みたいなイメージのもの」等と応じて、仕組債の売り込みを行っていたことが明らかになった。このような遣り取りから誤導勧誘が明確となったことにより、人証尋問の後、証券会社が被害金額の8割以上強を証券会社が賠償することを内容とする和解が成立した。

まとめ

仕組債の違法勧誘が問題となる事案は多数発生しており、裁判例も積み重ねられ、金融庁の監督指針も厳しくなって久しいが、残念ながら、仕組債を上記のように定期預金に例えて安全なものとして売り込む勧誘が横行しているのが、今も変わらぬ実情である。訴訟になると、証券会社側はこのような勧誘実態を平気で否定することが多いものの、電話録音記録には具体的な遣り取りが残っており、直接的に及び間接的にも、重要な証拠となる。本件事件はこれが決め手となって相当な賠償が行われた有意義な解決事例である。

文責:今井孝直弁護士

令和02年03月19日

テーマ(1):大阪地判令和2年1月31日(公募仕組債につき適合性原則違反を認めた)

報告担当:片岡利雄弁護士

事案の概要

原告らのうち母は、仕組債、投資信託、外国株、株式信用取引に関し適合性原則違反、説明義務違反、過当取引により、また、個別株の売却に関し、「クロス取引」を行わなかった義務違反、取引方法の説明義務違反により不法行為に基づく損害賠償請求を求めた事案。原告らのうち娘は、仕組債、外国株取引に関し、適合性原則違反、説明義務違反、過当取引による不法行為に基づく損害賠償請求を求めた事案。

判決のポイント

母:投資信託・外国株につき適合性原則、説明義務違反否定。仕組債につき適合性原則違反肯定(過失相殺6割)、説明義務違反否定。株式信用取引につき、適合性原則違反肯定、説明義務違反否定、過当取引肯定(過失相殺2割)。

娘:仕組債につき適合性原則違反肯定(過失相殺6割)、説明義務違反否定。外国株につき、適合性原則違反否定、説明義務違反否定、過当取引肯定(過失相殺5割)。

報告者コメント等

説明義務違反の判断の薄さに落差あり。社内規則違反を重視している点が特徴。

主張、立証の工夫として、時系列で商品ごとの会話内容の要約を書面として提出。さらに、代表的な会話内容を抽出し、どの点が違法性を基礎づける事実となるのかを丹念に書面で主張。判決末尾添付のとおり、各商品の要素事項の一覧表を裁判所に一覧性のある表として提出。

意見交換等

投信取引の適合性原則違反の否定判断は、商品性を抽象化させている点でH17最判に抵触のおそれ有り。説明が尽きたところから適合性がはじまる(川濱教授@京大)と親和性ありか?

テーマ(2):最近被害顕在化が見られる仕組債事案の情報交換

報告担当:今井孝直弁護士

1.大和証券販売の複数指標2倍リンク債について

複数の相談が寄せられている。商品の合理性自体にも疑問がありそうだ。当時のプレーンなレアル建て外債との比較はいかが?相談投資家は勧誘により元本は毀損しない商品でよい利率だと思って買っている点に注意。

2.日興証券販売の為替リンク債について

こちらも複数の相談が寄せられている。

書記役:安枝伸雄弁護士(京都)