研究会活動
平成29-30年 活動報告
INDEX
- 平成30年05月11日
- テーマ:村本論文を読み解く
- 報告担当:今井孝直弁護士、吉岡康博弁護士、古川幸伯弁護士
- 平成29年12月05日
- テーマ:司法研究報告書「デリバティブ(金融派生商品)の仕組み及び関係訴訟の諸問題」の適合性原則違反に関する部分の検討
- 報告担当:田端聡弁護士
- 平成29年02月09日
・03月11日 - テーマ:事業法人・同役員(個人)への私募型EB債の勧誘販売事案
- 報告担当:渡辺数磨弁護士(金沢)
- 平成29年01月17日
- テーマ(1):個人情報保護法に基づいて、顧客と証券会社との通話録音記録を開示請求できないか
- テーマ(2):各会員担当の事例研究
- 報告担当:松田繁三弁護士
平成30年05月11日
テーマ:村本論文を読み解く
報告担当:今井孝直弁護士、吉岡康博弁護士、古川幸伯弁護士
【その1】P173~P196 … 報告担当:今井孝直弁護士
1.問題の所在~本稿の構成~
まず、現行の金商事業者の説明義務の内容と規制、リスク商品である仕組債の裁判例を概観する。その上で、リスク取引の特性、リスク取引である仕組債取引での金商事業者の説明義務の範囲や内容、説明義務の履行方法と程度、説明義務と顧客のリスク誤認補正の関係などについて検討する。
2.説明義務と開示義務
3.説明義務に関する仕組債裁判例
(1)説明義務違反否定例
(2)説明義務違反肯定例
【その2】P196~P219 … 報告担当:吉岡康博弁護士
(2)説明義務違反肯定例(…続き)
4.仕組債の商品性とリスク
5.リスク取引の特性
(3)投資取引とリスク・リターン把握の必要性
- ア 投資・投機は、将来の不確実な価格変動に賭ける点でギャンブル・賭博に似ているが、リスク・リターンを顧客の取引目的とリスク許容度の範囲に収めなければならない点でギャンブル・賭博と異なる。
- イ 投資を行う際の意思決定過程は、①②③の順となる。
- ① 投資目的の明確化(期待収益とリスク許容度を把握し、投資目的に沿った投資案を作成)
- ② 制約条件(流動性、投資期間等)の明確化
- ③ これらを踏まえた投資方針の決定(資産クラスへの投資の割合、分散投資の程度、リスクの考慮、投資期間中の現金確保の必要性等)
- ウ 投資といえるためには、投資目的に沿う投資方針に従ったリスク管理判断が必要。顧客にはそれに必要な知識・情報の理解とリスク管理判断能力が求められる。
【その3】P196~P243 … 報告担当:古川幸伯弁護士
6.リスク取引と説明義務の範囲
(5)小括
- ア リスク取引では、商品の仕組み、リスク内容や取引条件以外に、商品のリスク評価に必要な商品の現在価値、ボラティリティなどの情報の取得、理解が重要。これを理解することは、顧客の取引目的に関連したリスク制限、回避に不可欠。
- イ リスク・プレミアムから控除される利潤・コスト情報は、金商事業者のみ保有し、金商事業者と顧客には、保有に非対称性がある。
→ 金商事業者には、信義則上、これらを顧客に提供すべき義務がある。
7.リスク取引と説明義務の履行
(5)小括
- ア 金商事業者の説明義務は、顧客の自己決定に必要な情報提供を求めるにとどまらず、事業者の説明により生じたリスク理解、評価の誤りを是正する機能と役割を果たす。これは、直ちに違法と評価を受けないような事業者による誤導、顧客状況の濫用などの不公正な取引方法を、説明義務違反という形で、違法評価に取り込むものといえる。
- イ 司法研究報告の不適合商品勧誘の不法行為
→ 誤導による顧客の判断の歪み、誤認の是正は、金商事業者の説明義務の範囲に属する。
8.リスク誤認の是正と説明義務
9.おわりに
- ア リスク取引の特性として、取引顧客にはリスク管理判断が求められる。
- イ したがって、顧客は、不確実性を有するリスクの評価、リスク管理判断に必要な事項について情報を取得し、理解する必要があるところ、この種情報の質・量において金商事業者と顧客との間に非対称性が存することから、金商事業者は顧客に対して説明義務を負う。
- ウ 具体的には、リスク評価に関しては、商品の時価、販売業者の利潤・コスト情報のほか、商品のボラティリティ、リスクファクターの価格に与える影響、リスク管理に関しては、リスク制限、回避に関する情報の具体的な説明を求められる。
- エ 金商事業者による商品説明に誤導や、断定的判断の提供があれば、それは違法評価を受ける。それに至らない場合でも、それが顧客の商品の仕組み、リスク内容、リスク評価や取引条件についての理解不足、理解の歪みや誤認を生じるときは、これを是正する義務は、金商事業者の説明義務の文脈に求められる。それ以外の事由、たとえば顧客バイアスなどによるリスク判断偏りを是正するための助言義務は、説明義務の文脈で説明できない。これは、適合性原則の稼働領域である。
議論
1.「5. リスク取引の特性」(P213~P219)は経済学の知見に照らして論じられており、論文の核となっている(経済学と法学の交錯)。
2.「投資」といえるためには、投資目的に沿う投資方針に従ったリスク管理(回避、予防、保持と移転)判断が顧客に求められ、その判断を行わない取引はギャンブルを行うにほかならないとする。
3.「ギャンブル」と「投資」の違いを経済理論的に整理しており、訴訟で説明義務違反等を主張する際、前提となる総論として大いに参考にすべき論文との認識で一致した。
書記役:今井孝直弁護士
平成29年12月05日
テーマ:司法研究報告書「デリバティブ(金融派生商品)の仕組み及び関係訴訟の諸問題」の適合性原則違反に関する部分の検討
報告担当:田端聡弁護士
上記テーマについて、報告者から分析報告がなされた。その後、以下のような質疑、意見交換がなされた。
質疑、意見交換の要旨
1.「投資支援」の考え方と適合性原則とのつながり、つなげ方。
→ 悪質性の立証にまで成功しないと勝てないという状況から抜け出せるのではないか。たとえ事業法人でもこの商品をこれだけ売ったらいけないというのに「投資支援」という考えで近づけるのではないか。
2.「排除」の考え方でも救済できるケースは結構あり、「支援」は適合性とはつながらないのではないか。おかしな勧誘を止めるのが適合性原則ではないか。
3.平成17年最判の救済範囲を狭くせずに従前どおりの理解で主張しつつ「投資支援」の考えをプラスして主張するのは可能か。
→ 可能。ただし、前段で平成17年最判の評価がおかしいということを指摘するので、「投資支援」の考えをプラスする部分の主張の説得力は弱まると思う。
4.平成17年最判の射程で、意向部分を落とし実情だけになったのはなぜか。この報告書を善解すると、平成17年最判が意向と実情を考慮するとしているのに、下級審が実情しか見ていないから、そこを修正するために「支援」の考え方を入れたのではないか。平成17年最判の趣旨を生かすにはこういう予備的な考え方を入れてみてはどうか、ということではないか。
5.背景には多数のおかしな判決がある。17年当時より更にデリバティブ取引を許容するという金融政策の流れがあり、かつ、粗雑な棄却判決が多数出てきた中で、執筆者たちにはそれらを整理して今後は下級審でより良い判決を書いてもらおうとの使命感が有るように思う。平成17年最判をそのまま使うのではなく、デリバティブ取引の許容は否定できない中で、民事的違法性につき、どこまで書けるかということではないか。
6.不適合商品勧誘の不法行為の要件(139頁)として、①顧客のヘッジニーズに適うことをうたった自らの勧誘行為(先行行為)に基づく作為義務(誤解を解く義務)の要素、②誤導的な説明により投資判断を誤らせたという要素、③信認関係を背景とする専門家に対する信頼の保護の要素、があげられているが、これらは現実の事件ではいずれも認められるようなものだ。ハードルになるものではないのではないか。
→ そのような理解は大切だ。しかし、文面上厳しい限定を課しているとも読める。かなりの裁判官もそう読むことが懸念される。また、証券会社はこのくだり(上記3点)につき、より限定的にすべく主張してくるのではないか。
7.適合性原則違反は不法行為なのに、こういう形式的な要件立てをすること自体が問題ではないか。国民の財産権を保護するという裁判所の職責を放棄して審理の容易さに走ろうとしている印象が拭えない。
書記役:加藤進一郎弁護士(京都)
平成29年02月09日・03月11日
テーマ:事業法人・同役員(個人)への私募型EB債の勧誘販売事案
報告担当:渡辺数磨弁護士(金沢)
事案の概要
地方で製造業を営む同族会社及びその役員(女性)に対して、私募型のEB債(外国株々価連動型)を勧誘販売した事案。
商品特性
EB債の商品特性。大阪地裁平成25年2月15日判決を参照。※
※前記判決要旨
「本件各EB債については、満期時までに対象株式がトリガー価格を超えて上がると早期償還されてその後は金利がつかずに元本が償還され、基準価格を下回らない限り一定の高い金利が払われるが、それ未満になると0.1%の金利で拘束される上、株価が下落し転換対象株式で償還された場合に下落分の評価損を負担することとなるが、途中売却が困難であるためにそのような評価損を軽減又は回避することができないなどのリスクが存するものということができる」
「そのため、購入者は、経済状況、株式市況の動向に関心を払い、3年後の株式市況の動向を予測した上で、途中売却が困難であるというリスクを取りつつなお購入すべきか否かの判断をしなければならず、主体的積極的な投資判断を要する投資商品であり、リスク性の高い投資商品である」
違法性
本件取引の違法性としては、適合性原則違反と説明義務違反が考えられる。
特に、適合性違反について。
資金適合性
本件EB債の購入に充てられた資金の性質からして、リスクを取れないにも関わらず、リスクの高いEB債の購入を勧めたのは問題ではないか。
意向適合性
EB債には、上記商品特性があるので、株価変動によって得られる利益が異なるので、株の値動きを見るのがしんどいと感じ、株式取引は避けたいと考えていた購入者の投資意向にはそぐわないのではないか。
知識能力適合性
本件EB債の対象株式が外国株であるところ、外国株については日本株に比べて情報が入りにくいことから、高い判断能力を有していなければ適合しないのではないか。
法的手続等
同種案件における訴訟手続や証拠保全手続、立証資料やその入手方法等について、参加会員の経験を踏まえた意見交換が行われた。
平成29年01月17日
テーマ(1):個人情報保護法に基づいて、顧客と証券会社との通話録音記録を開示請求できないか
報告担当:松田繁三弁護士
問題の所在
今日、各証券会社では紛争対策及び社内モニタリングのために、顧客と職員との電話内容を録音し、保存する態勢が整っている。そのため訴訟においても録音記録が重要な証拠となる場合が多い。しかし、証券会社によってはその提出を拒否するところもある。これに対しては文書提出命令申立を行なうのが実務上の通例であるが、証拠収集の手段を拡充するとの観点から、個人情報保護法に基づく開示請求の可否を検討してみる。
意見交換
論点としては、①録音記録が「個人情報」に該当するか、②録音記録が「個人データ」に該当するか、③録音記録が「保有個人データ」に該当するか、④裁判規範として開示請求権が存在するか、⑤開示請求を拒否できる例外事由に該当する場合は何か、などがある。
電話会話の録音記録は個人情報保護法に基づいて開示請求できると考えられる。なお、前記録音記録以外の資料については、それを同法に基づいて開示請求できるかについて研究を進める必要がある。
テーマ(2):各会員担当の事例研究
参加会員が担当している具体的事案の情報交換・相互助言などを行なった。その中から、回転売買事案、外国株事案、高齢者被害事案などいった一定の類型の事案が集中する証券会社があることが分かってきた。