研究会活動

平成28年 活動報告[1]

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平成28年04月21日
テーマ:大阪高等裁判所平成27年10月25日判決(私募EB債取引)
報告担当:三木俊博弁護士、松田繁三弁護士、今井孝直弁護士、古川幸伯弁護士
平成28年02月18日
テーマ:平成27年12月25日名古屋地裁岡崎支部判決(FXターン債)
報告担当:中嶋弘弁護士
平成28年01月14日
テーマ:「デリバティブ商品の構造とプライシング」
外部講師:足立教授(同志社大学)

平成28年04月21日

テーマ:大阪高等裁判所平成27年10月25日判決(私募EB債取引)

報告担当:三木俊博弁護士、松田繁三弁護士、今井孝直弁護士、古川幸伯弁護士

事案の概要

原告は、無職の50代の女性。流動資産は1000万円程度。元々両親からの経済的援助や相続により約1億円の資産を有し、ペイオフの上限のない決済性預金の入れておくなど、安全大事に保有していた。その後、みずほ銀行の勧めで仕組預金(特約付外貨定期預金)を行っていたが、平成20年4月、同じ建物の旧みずほインベスターズ証券を案内され、本件EB債を2口2068万円購入したところ、大きな損失を被ったため、訴訟提起。一審では、①適合性原則違反②説明義務違反③指導助言義務違反④金融商品販売法上の説明義務違反を主張したが、全面敗訴。原告側控訴して、逆転勝訴。

判決内容

1.投資意向

「亡Xは、現在及び将来の生活資金である預金の目減りをできる限り少なくしたいとの切実な願望も持っていたのであるから、本件EB債のリスク等についてきちんとした説明を受けておれば、大きな損失を被るおそれのある本件EB債を購入することはなかった。」

2.契約締結前交付書面交付の有無

(アプローチ履歴の記載、その日付後の電話録音の内容、受領書等の不交付等の事実踏まえ)「契約締結前交付書面の交付が失念されたのではないかとの疑いが払拭できない。」

3.金販法上の説明義務違反

「亡Xのように初めてEB債を購入する顧客が、本件説明書なしに、券面額を転換価格で除した数値が償還株数となるとか、転換価格と償還時株価の差額に償還株数を乗じた金額が償還時の損失となると想像することは困難である。」

「金融商品取引法は、契約締結前交付書面の交付を義務付けるとともに、記載内容に関する実質的説明(顧客に理解させるために必要な方法及び程度による説明)をしないで金融商品取引契約をすることを禁止するとともに、金融商品販売前に、『顧客の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によ』り、元本欠損が生じるおそれ、元本欠損の原因となる指標、その指標が元本欠損を発生させる仕組みの重要部分を説明すべき義務を課している。」

「外務員は、株式償還となった場合に、どういう計算で何株償還され、亡Xの損失がどの程度の金額になりそうなのかという点について、何ら具体的な説明をしていない。」「すなわち、外務員は、契約締結前交付書面の交付をせず、かつ、株式償還による元本欠損のおそれや元本欠損が生じる仕組みの重要部分を説明していない。」

報告者のコメント

本件では、そもそも契約締結前交付書面さえも交付していない以上、「元本欠損を発生させる仕組みの重要部分」はもちろん、「元本欠損が生じるおそれ」についても、上記のレベルの説明すらもできていなかったはずだ、という心証を抱いたものと思料される。

アプローチ履歴や電話録音による、契約締結前交付書面交付の有無についての緻密な立証が功を奏した事案であった。

意見交換
  1. 金販法上の説明義務の範囲・程度
  2. 録音の存在・範囲(本件のような顧客からの架電のみ録音している等で、全てが開示されないケース)
  3. 過失相殺と金販法違反との関係

平成28年02月18日

テーマ:平成27年12月25日名古屋地裁岡崎支部判決(FXターン債)

報告担当:中嶋弘弁護士

事案の概要

原告は37歳の男性で現在無職(購入時は期間契約工(年収約300万))。平成17年に母親の遺産約1億円超の金融資産を承継したことを契機に株取引をはじめる。若干の株取引及び投資信託(海外債券への投資含む)等の購入歴あり。平成19年7月、被告会社とファンドラップ投資契約を締結する際に本件仕組債の勧誘を受けて5000万円で購入する。その後、為替変動により仕組債の価値下落。平成24年12月損害賠償を求め提訴。

判決内容

1.本件仕組債について

本件仕組債は、米豪いずれか一方の通貨が基準価格より円安に進めば早期償還の可能性は高まるが、逆に円高に進めばクーポンを得られず、早期償還しない可能性が高まり、早期償還がされない時には、発行体の選択により、米豪いずれかの通貨により予め定められた金額で満期償還されるものであり、このようなクーポン発生や償還の条件自体は理解困難なものとは言えないとしつつ、その危険性について、①満期に至るまで投資資金の拘束が続く可能性は低くはなく、拘束が続いた場合には5000万円もの資金が30年間との極めて長期間拘束される、②早期償還のためには、米ドル及び豪ドルの為替相場が、設定された基準価格よりも円安に進む必要があるが、年2度の利払日の時点において、基準価格よりも円安となるかどうかを購入時点で予測するのは極めて困難であり、③為替相場が円高に進んだ場合に途中売却をすれば大幅に元本を欠損するリスクがある(社内時価[<購入価格]を基準に売却価格算定される)と指摘したうえ、本件仕組債を「危険性が相当に高い商品というべきである」と評価した。

2.説明義務違反

原告の属性からみて、本件仕組債の購入に際して具体的な説明が必要であり、説明書の内容のみで具体的リスクを十分に認識し得たとは言い難いとしたうえ、リスク等の評価について説明が不充分である点を具体的に指摘した。主なものとしては、①クーポン発生条件の説明の際「当時の為替レート」を用いて説明していること(商品設計上このレートではクーポンは当然発生する=リスクを過小評価させる)、②元本割れリスクについても、30年の資金拘束があり得ることの説明はなされたものの、上記レート(満期償還レートよりも相当円安)によれば大幅な差益が生じる想定となること、③途中売却について、説明書の記載以上の説明は行われておらず、途中売却の方法、売却価格の見込み等は全く説明されていないこと、など。また、これに加えて、購入の際に原告が、円高相場の動きを指して「買いチャンスだよね?」と発言し被告担当者もこれを肯定した経緯もあり、本件仕組債を原告が(被告担当者も?)理解していないことが窺われた。

3.損害

原告は本訴中も(現在も)本件仕組債を保有。ゆえに、本件仕組債の時価及び受取済クーポン額が損害から控除される。時価については、口頭弁論終結時の被告社内時価から5%を本件仕組債の時価と評価。

4.過失相殺

一応の投資経験と知識があったことを前提に、資料による一応の説明を受けた点、自らインターネット等で調べて代替の商品内容を理解していた点。自ら疑問点を確認する等して商品の理解に努めていれば、リスクを把握して購入を回避していた可能性もある点など、から原告に6割の過失があることを認定。

報告者コメント

仕組債訴訟の一般的な注意点を踏まえ、本件仕組債訴訟での工夫等について多岐にわたって詳細な解説が行われた。主な点は次の通り。

1.商品特性について十分に理解し、裁判官の持つ疑問に即時かつ的確に答えられるように準備すること。

2.超長期取引である特徴として、逸失利益(30年後に償還されたお金の現在価値)を考慮しないと損失を把握できず、その経済的意味を裁判所に理解してもらうようにすること。

3.「利ざや論」については、利ざやが大きいから不当だとか、儲かる確率が低いという使い方よりもむしろ、購入価格と比べて社内時価が低いと言う結論に言い換え、途中売却時の元本欠損リスクが高いと言う主張に結び付ける。

4.時価の機能についての分析

時価の定義(将来のキャッシュフローの現在価値)から、二つの機能に分けられる。

  • (a)購入時の投資判断における時価
    ⇒[a1]どの程度平均的に損をするか得をするかの判断、[a2]参照指標の変動に伴って将来の損益の期待値がどのように変動するかの認識、に分けられる。
  • (b)購入後のリスク管理における時価
    ⇒仕組債の場合は途中売却の場面にあらわれる。

証券会社の主張の傾向として、[a1]のリターンの問題部分にのみ着目し、顧客の「相場観」による自己責任を強調する。[a2]及び(b)のリスクの問題はそもそもオプション評価モデルによる時価評価とかけ離れた「相場観」の通用しない分野である。仕組債を売却(デリバティブなら解約)するときは、業者の計算により算出された時価を元にした金銭授受が行われるのであるから、一般投資家にとって唯一のリスク管理方法である売却(仕組債)ないし解約(デリバティブ)の際に、どのようなキャッシュフローとなってリスクが現実化するのかを当初契約時に把握しておく必要がある。そのためには業者の計算による時価の特性を知っておく必要がある。

5.外務員反対尋問の目標について

反対尋問の着眼点は、あるべき投資勧誘と現実の勧誘の乖離。①たんに提案書を読み上げただけの説明、②勧誘時のレートを用いて試算し、それ以外の不利なシミュレーションはしなかったこと、③他の商品は勧めなかったこと、④流動性の欠如の説明がなかったこと、⑤途中売却の方法について全く説明がなく、むしろ売却できることを前提とした説明をしたこと、⑥本件仕組債の日々の時価が(投資家はもとより外務員ですら)分からないこと、⑦格付けについて超長期取引であることに則した説明をしていないこと、など。

平成22年10月12日の大阪高裁判決とあわせ、今回の判決を参考にしてFXターン債等為替連動型仕組債の訴訟における勝訴を目指して努力を続けるべきである。

平成28年01月14日

テーマ:「デリバティブ商品の構造とプライシング」

外部講師:足立教授(同志社大学)

報告内容

今回の例会では、同志社大学政策学部ならびに同志社大学大学院総合政策科学研究科教授である足立光生先生から「デリバティブ商品の構造とプライシング」とのテーマでご講演をいただいた。足立先生は、「金融工学を勉強しよう」(日本評論社)などの著書があり、金融工学の専門家の観点から、デリバティブ商品についての解説をいただいた。

冒頭

まず冒頭で、個人投資家にもデリバティブ商品が提供される中、個人投資家は、一次資産(株式)投資と二次資産(デリバティブ)投資の違い、すなわち、資産構造の違いやボラティリティ・トレーディングの認識を持つことが必要であるとの問題意識が示された。

講演の前半

講演の前半では、デリバティブ商品の構造についての解説があった。

オプション取引について、近年の中小企業等を対象とした商品の特徴に触れつつ、その構造についての解説があった。数式等の複雑な話はあえて行わずに平易な解説をしていただけた。

講演の後半

講演の後半では、デリバティブ商品のプライシング(時価)について、以下のような解説があった。

すなわち、時価を計算するためのプライシング・モデルには原資産の変動に対する思想が含まれており、この思想についての、販売者サイドと投資家との同意が必要であること。また、プライシング・モデルにはとりわけ原資産の変動性に対する相場観として主観的な「変数」(ボラティリティなど)を代入する必要があるが、これについても、販売者サイドと投資家との同意が必要であること。そして、これらの点について一致がないと時価が一意とはならない。

その後、足立先生の発表に対する質疑応答や議論が行われた。

報告者コメント

今回の講演では、デリバティブ商品の構造を分かりやすく解説いただき、日ごろデリバティブ投資の問題に取り組む当研究会会員にとって、大変有意義な内容であった。また、デリバティブ商品の時価の開示について議論することも多いが、今回の講演を踏まえれば、その時価については、いかなるモデル・変数を用いているかという点も顧客に開示されることが重要なのではないかと思われた。