研究会活動
平成28年 活動報告[2]
INDEX
- 平成28年10月17日
- テーマ(1):会社四季報の見方・使い方
- テーマ(2):金融商品とその販売活動の有り様・問題点
- 講師:緒方欽一記者(東洋経済新報社・編集局『週刊東洋経済』記者)
- 平成28年08月18日
- 8月例会
- 平成28年07月14日
- テーマ:「銀行によるデリバティブ取引と法人顧客の適合性」
- 山田剛志教授(成城大学法学部)
- 平成28年05月12日
- テーマ:高齢者に対する外債・投資信託の勧誘事例
- 報告担当:三木俊博弁護士、向来俊彦弁護士
平成28年10月17日
テーマ(1):会社四季報の見方・使い方
講師:緒方欽一記者(東洋経済新報社・編集局『週刊東洋経済』記者)
事件報告
片岡会員から事件報告。対象株式について「投資指標」(株価収益率・株価資本倍率等)を会社四季報を引用する等して紹介し、対象株式を平均的な個人投資家が投資対象とすることは無謀なこと=リスクが極めて高いことを明らかにして(銘柄分析書作成)、それを積極勧誘した証券会社の違法行為を指摘した。それが奏功して、FINMAC(ADR手続)にて和解々決に至った。
会社四季報の見方・使い方
会社四季報は、年に4回発行され、記事の内容は、大きく、会社に対するアンケートから得た情報部分と、記者が取材で得た会社の業績やトピックを文章化した記事部分に分かれている。特徴として、今期、来期の2期分の予測を立てていることをウリとしているとのこと。過去のデータをベースにした予測であることから、中長期的な視点で分析するには有用で、同業種の会社間と比較すると、業績の傾向が分かり易いという長所がある一方、過去に引きずられ、短期的な大きい変化に弱いという短所があるとも解説された。
テーマ(2):金融商品とその販売活動の有り様・問題点
緒方記者は、これまで、エコノミスト誌や東洋経済誌において、海外積立投資商品・FX取引・仕組債・為替デリバティブ取引・投資詐欺・仮想通貨など、多様な金融商品(詐欺商品を含む)に関し個人投資家の視点から、取引の問題点を指摘する記事を多数執筆・公表されている。その中では、読者が理解できるよう分かり難い専門用語をなるべく使わないように配慮したり、現実にどのようなことが起きていたのかという現場と被害の実態に焦点を当てて、記事を書くようにしているとのこと。
裁判の取材を通して感じたこととして、専門家である法律家と裁判の当事者本人との間で、しっかりとコミュニケーションをとってほしいと、意見を述べられた。多くの市民は、裁判所に対し、自分の主張に耳を傾け、真実を解明することを期待しているが、現実の裁判では、主張立証責任の問題等から、必ずしも真実解明ができない場面もある。そのような中で、裁判官が法廷で本人の面前で法律違反ではないとポロッと言ってしまったり、裁判終了後に、代理人である弁護士が本人とあまり話しをしていない様子を見ると、もっと本人の心を汲み取ったフォローが必要ではないかと感じるとのこと。私たち法律家には少し耳の痛い貴重な意見をいただいた。
平成28年08月18日
8月例会
当会々員が担当している事案について情報・意見交換を行なった。
担当している事案
1.松田会員
【事案】高齢者に対する投資信託の乗換売買を中心とする事案。
2.今井会員
【事案】過当取引事案。
3.吉岡会員
【事案】過当取引事案。
4.古川会員
【事案】信用取引を含む過当取引事案。投資家本人が「信用取引」をしていた認識がないと言っている事案(※)。
5.山崎会員、三木会員
【事案】新興国通貨連動仕組債の事案(※)。最近、再び、仕組外債の勧誘販売が盛んになってきたようである。対象通貨が「新興国通貨」となっており(先進国通貨建てより)為替リスクが高いものが登場している。
平成28年07月14日
テーマ:「銀行によるデリバティブ取引と法人顧客の適合性」
山田剛志教授(成城大学法学部)
報告内容
最判平成25年3月7日や最判平成25年3月26日では、顧客が法人の場合、企業経営者であれば理解可能であるから説明義務違反はないとして顧客敗訴判決がなされ、各方面に影響力を及ぼしている。
従来、適合性の原則は、複雑な金融商品に対する理解力が低い高齢者等に対して問題となり、法人取引はその対象とならなかった。上記2判決も同様の考え方だが通貨デリバティブを巡る問題においてそのように簡略化してよいのか疑問である。顧客にヘッジニーズがないのに為替デリバティブ契約を締結された場合、メインバンクから勧誘されて合理的に拒否できなかった場合、公的な補助金を受給している社会福祉法人や学校法人に対して場合により事業継続できなくなるほどの損失を与えるデリバティブ取引を勧誘した場合などには適合性原則違反が成立する余地があるのではないか。
最判平成17年7月14日は、業者側の勧誘態様のみならず商品特性や顧客の投資経験・知識、投資意向、財産状態等の事情を相関関係説の中で考慮すべきと判示しており、勧誘は適合性原則違反の有無を検討する1つのファクターに過ぎない。これらの要素について相関関係を検討した場合、適合性の原則に著しく違反するとして不法行為法上も違法性になる可能性があり得る。
質疑応答の要旨
1.顧客に対して商品性やリスク等を説明しても理解できない場合には適合性原則違反になる場面が生ずる。
2.倒産しない規模であってもギャンブルだから適合性原則違反を主張できないかという意見もあるが、相関関係説を採るのであれば、顧客が説明を受けた上でリスクテイクできる範囲の取引ならば適合することになる。もちろん、商品特性がアンバランスであったり大量販売であったりするのであれば、相関関係説の要素にはなり得る。
3.結局、金融機関側と顧客側の事情を総合判断するべきであり、そこには集中投資、内部規制違反、勧誘後の事実も含まれるはずである。H17年最判からは排除の理論として主張されている狭義説は導き得ないのではないか。
4.H25年最判が事情判決であると裁判所に理解させるためにも、倒産可能性という要素を挙げるべきではないか。こんなにリスクがあるアンバランスなものを全支店上げて売るは問題ではないか。
平成28年05月12日
テーマ:高齢者に対する外債・投資信託の勧誘事例
報告担当:三木俊博弁護士、向来俊彦弁護士
事案の概要
事案1
取引開始当時84歳の一人暮らしの女性が、平成25年4月中旬から平成26年10月上旬にかけて、①韓国輸出入銀行が発行する、メキシコペソ建て・銀行債券に対し、総額約6400万円の投資を行い、約919万円の損失を被り、②ドイツ復興金融公庫が発行する、トルコリラ建て・銀行債券に対し、総額約1700万円の投資を行い、約163万円の損失を被った。被害回復を求めて、ADRの申立を行った。
事案2
取引開始当時80歳の無職女性が、平成20年10月から同年12月にかけて、1か月半の間に、世界銀行債に6134万円もの集中投資を行った。そのほかに、投資信託にも投資を行ったほか、実妹名義・長女名義の取引もあった。平成24年3月、報告者が成年後見人に就任した。取引当時の意思能力に問題がみられ、平成24年12月提訴。
事案3
取引当時87歳の無職男性が、平成24年4月から平成26年5月にかけて、外債と投資信託に投資した。男性は、平成14年ころ、脳血管性パーキンソン症候群を患い、平成17年ころ、硬膜下血腫により入院・手術を行うなどし、取引時の意思能力に問題がみられた。男性の死亡後、長女からの相談を受け、提訴準備中。
報告及び意見交換
事案1では、為替リスクが高い金融商品に集中投資がされていた点、本人が高齢者であった点から、FINMACのADRの申立てを選択。高齢者の被害事例において、業者の違法性の判断する際に参考にすべき考え方として、日証協の高齢顧客への勧誘による販売に係るガイドラインの内容について報告及び意見交換がなされた。
事案2、3では、過去の時点における本人の意思能力の立証方法、及び外債のリスクに関し、為替レートと外債の価格とが連動していない場合があるという点(従って為替リスクについて説明すれば足りるというわけではないこと)につき報告及び意見交換がなされた。