研究会活動
平成27年 活動報告
INDEX
- 平成27年12月10日
- テーマ:神戸地方裁判所姫路支部平成27年4月15日判決(証券過当取引)
- 報告担当:安田孝弘弁護士(姫路)
- 平成27年10月08日
- テーマ:福岡地裁平成27年3月20日判決(仕組債、外債)
- 報告担当:尾崎大弁護士(福岡)
- 平成27年01月08日
- テーマ:横浜地裁平成26年8月26日判決の検討
- 報告担当:石戸谷豊弁護士(横浜)
平成27年12月10日
テーマ:神戸地方裁判所姫路支部平成27年4月15日判決(証券過当取引)
報告担当:安田孝弘弁護士(姫路)
事案の概要
原告は、長年事務職として勤務していた50代の女性。流動資産としては1000万円程度。
- 約1年半の間に、株式信用取引を144回(22銘柄)
- 損失777万5622円(うち手数料が370万8227円)
- 手数料化率:47.69%
- 年次回転率:10.740%
- 保有期間が10日以内の取引が約30%
- 適合性原則違反が認められ、598万2958円認容された(過失相殺3割)
本判決に対し、被告が控訴したが、判決期日の3日前に、被告(控訴人)が控訴を取り下げ、確定。
判決内容
1.適合性原則違反
①:最高裁平成17年を引き合いに出し、信用取引の勧誘自体が適合性に反して不法行為法上も違法になるか、②:本件信用取引が具体的な取引状況に照らし適合性の原則に反して不法行為法上も違法となるかの2段階で判断。②のみ認容。
①について
信用取引の危険性に触れ、原告の投資経験からハイリスクな信用取引をする足りる十分な経験を有していないこと、録音記録から信用取引をするための知識が不十分であること、投資目的が最初の顧客カードの記載(中長期、投資資産の増大)から変更されている(短期、積極値上がり益重視)理由がないことから原告の投資以降が中長期の投資資産の増大にあること、原告の資金が定年に備えた老後の資金であることを認定。
しかし、投資意向が元本重視でないこと、原告の経歴や取引の仕組みから、信用取引の仕組みやリスクについて一応の理解を有していたこと、録音記録からみて追加保証金の存在を認識していたことを理由に、否定。
②について
原告がハイリスクのある信用取引を行うための十分な経験を有していないこと、新聞の株価欄の見方を理解していなかったこと(録音記録)、信用取引の知識が不十分であったこと(録音記録)、取引当初から買付金額が多かったこと、取引が経過しても原告が取引状況を把握できなかったこと(録音記録)にもかかわらず買付が増大したこと、原告が損失の返済のための入金の必要性、手数料の計算方法等について認識できていなかったこと(録音記録)、二階建取引についての説明の欠如、「新値」についての虚偽説明、取引が担当者の提案によりなされたこと、取引期間、回転率、手数料化率を理由に、認定。
2.説明義務違反、断定的判断の提供、実質一任取引
いずれも否定。
3.過失相殺(3割)
原告が一応の理解をしていたのに漫然と取引したこと、取引を途中で止めなかったことから3割過失相殺。
報告者コメント
本件では録音記録が重要であり、録音記録から、原告の知識理解不足が浮かび上がってきた。少し前に他事件で証拠保全したこともあったためか、本件では、被告は録音記録を任意に開示してきた。
意見交換
- 平成17年最高裁判決を受けての適合性原則違反や過当取引の位置付け
- 回転率の主張、立証のやり方
- 録音記録の重要性(証拠保全の重要性)
等について意見交換された。
平成27年10月08日
テーマ:福岡地裁平成27年3月20日判決(仕組債、外債)
報告担当:尾崎大弁護士(福岡)
事案の概要
事案1
妻が、証券会社の担当者から勧誘され、夫名義で3つの仕組債(日経平均株価連動・為替連動の仕組債など)を購入し、損失を被った場合について、適合性原則違反、説明義務違反による証券会社の不法行為が認められた事例(3割の過失相殺)。
事案2
妻が、証券会社の担当者から勧誘され、外国債を購入し、損失を被った場合について、適合性原則違反、説明義務違反による証券会社の不法行為が認められた事例(5割の過失相殺)。
判決内容
1.本件仕組債について
商品特性について、本件仕組債はいずれもリスクが高く、得られる利益とリスクの比較が容易でない複雑な仕組みを有する金融商品であると認定した。そのうえで、原告らの理解力は、本件仕組債の特性とリスクについて、担当者から一応の説明を受けたとしても、抽象的に利回りが良いとか、元本割れの危険があるという程度の表層的な認識にとどまり、商品の特性とリスクを理解した上で主体的に商品を選択する程度のものとし、本件仕組債の購入はその能力に比して過大な危険を伴っていたとして、適合性原則違反を肯定した。
また、説明義務違反についても、担当者はリーフレットを示すなどして一定の説明を行ったものの、利率や満期までの期間が5年であることのほかは概要の説明にとどまり、上記本件仕組債の特徴及びリスクを原告らが具体的に理解できる程度に説明しなかったとして、責任を肯定した。
2.本件外国債について
商品特性について、本件外国債は、その有する為替変動等のリスクはX2の知識・経験等に照らして理解が難しいものではなく、リスクと利益の関係についての投資判断がさほど困難であるとはいえないとした。しかし、投資資金は居住用マンションの購入資金として約1年後には必要となるものとK課長らがX2から聞いていたと認定したうえで、満期前の中途換金すなわち売付けが避けられない、その場合に為替変動リスク、流動性リスク等が現実化し大幅な元本欠損が生じ、マンション購入資金に不足をきたすおそれがある本件外国債は、資金の性質に照らし明らかに適合性を欠いていたとして、適合性原則違反を肯定した。
また、説明義務違反についても、X2が購入を希望したとしても、中途換金すなわち売付けをした場合に、為替変動リスク、流動性リスク等が現実化して大幅な元本欠損が生じ、その程度によってはマンション購入資金に不足するおそれがあることを具体的に説明した上で、慎重な投資判断を促すべき説明義務を負っていたが、その説明がなかったとして、責任を肯定した。
報告者コメント
1.電話録音とアプローチ履歴を対比するなどして細かく分析した結果、アプローチ履歴の記載内容(証券会社にとって都合のよいもの)が信用できないこと、担当者の陳述書・証言が信用できないことを立証することができた。
2.本件外国債は、本件仕組債より難解ではなく、X2らの取引経験からすると、勧誘の違法性が認められるのは容易ではなかった。しかし、電話録音により、X2の投資意向(投資資金を約1年後のマンション購入資金に充てる予定)を明確にすることができ、これにより、適合性原則違反と説明義務違反が認められた。
平成27年01月08日
テーマ:横浜地裁平成26年8月26日判決の検討
報告担当:石戸谷豊弁護士(横浜)
【事例1】横浜地判平成14年2月13日
生命保険代理店従業員が、顧客に融資一体型変額保険を勧誘し、契約させた事案において、同従業員の説明義務違反を理由に生命保険代理店および生命保険会社が不法行為責任を負うとした。変額保険契約は未解約の事案であったが財産的損害を認定したうえ、慰謝料についても3頁にわたって判示して認めている。
【事例2】東京地判平成25年7月12日判決(控訴審で和解成立)
原審は、業者が、顧客に為替デリバティブを勧誘し、契約させた事案において、原審は業者から顧客に対する説明義務違反はないとして本訴請求をおおむね認容し、顧客から業者に対する反訴請求を棄却した。控訴審では、和解が成立した。
【事例3】横浜地判平成26年8月26日
証券会社の従業員が女性顧客と、その子で、女性顧客の代理人である男性顧客を勧誘し、株価指数連動債の取引をさせた事案において証券会社が、適合性原則違反、説明義務違反による不法行為責任を負うとした。
報告者のコメント
事例1については、当初は、裁判官としては、定額保険とは違い、変額保険は投資運用によって保険金が変動することの説明があれば、運用が悪ければ元利金が返済できないことは理解できるという請求棄却の心証であったように思われた。しかし、期日を重ねる中で裁判官の視点が、顧客がどのように考えて契約を決断したかというものに変わったと思われる。
事例2については、説明義務違反について、原審は、書面と口頭の説明により基本的な仕組みとリスクを理解し得た、追加担保についても、書面の記載や信用取引の経験から理解し得た、中途解約の際、多額の損失が生じる可能性があることについても説明されていることを理由に契約するかどうかの判断は可能であったので、それ以上の説明義務があるとはいえないなどとした。しかし、控訴審の和解の席上で、裁判官に担保不足で強制された事案であるところ、十分資金があって担保を入れた場合や担保制度がない場合との具体的比較や損益の試算によって問題の所在を認識してもらい、単純な取引ではないとの認識をもってもらった。そのうえで、極めて特殊な担保制度であるため、為替レートの短期の急激な変動があった場合にも業者側の事情である担保の余力(担保不足額の計算は残存する全オプションの時価評価の1.2倍の計算)の問題で担保不足により顧客が予想しえない額の請求を受けること、その額は、かかる不利な条件で残存するすべてのオプションを「反対売買した場合に甲に発生する損金額として、乙が合理的かつ誠実に見積もった金額」であるが、その点について損金試算額と清算請求金額を比較するための表を提出するなどしたことにより裁判所が問題点を認識・理解してくれたことが和解につながったと思われる。
事例3については、勧誘の事実経過が詳しく再現できないことや証券会社各社への調査嘱託の回答による外形的には経験豊富な投資家像という不利な点もあったが、顧客の人間像を理解してもらったうえ、双方の供述・証言の信用性の争いを乗り切り、結果としてほとんど顧客側主張の事実経過が採用された。なお、証券会社が、各訴訟で社内規則の有無や接触履歴の有無について不整合な主張・回答をしてくることもありうるので他では違う回答・主張をしていることを指摘することも重要である。
その他、裁判例に関して、金融工学等に関心がある裁判官であれば格別、そうでなければ顧客側代理人の方で裁判例を示すなどして考え方のベースのお膳立てをするのが実務家としての役目である。また、業者側からも裁判例が提出されることがあるが、実務家は事案の攻防をよくみることが大切である。供述の信用性の問題から請求棄却ルートに乗っている裁判例もある。業者側提出の裁判例については、記録閲覧により法律論より事案の比重が高い旨の調査報告書の提出をすることも考えられる。